r 日本経済新聞 1996年 8月24日(土曜日)朝刊記事より
"X"NIKKEI
一番星

望月花梨さん漫画家もちづき・かりん岐阜県在住、21歳。愛知県内の大学に在学中。作品集に「欲望バス」など

 中学校。主人公の女の子が同級生二人に囲まれている。あんたを見てるとムカつく、友達が一人もいない ――。彼女たちを眺め主人公は思う。「私は思春期の女の子が気持ち悪い。不安定で無気味な生き物に見えます」。次の瞬間、反撃の言葉が口をついて出た。 「バカなのはどっちよ。くだらない共感し合ってお互いの品位下げてるだけのくせに」。
大きくスキャンした画像なので、めっさ重いけどカンベンして…クリックすると原寸で表示されます  望月花梨さんの漫画「コナコナチョウチョウ」の一こまだ。潔癖で感受性の鋭い主人公。時にリアル、時に詩的な独特の言語感覚。望月作品の特徴がよく表れ た場面だ。周囲になじめない少年少女の孤立感や、孤独を抱えた彼らが奇跡的に他者と心を通じ合わせ、新しい世界に一歩を踏み出す姿を繰り返し描き、強固な ファンを獲得している。
 同世代の友人より一年遅れて高校に進学した。中学二年までは運動部にも参加、普通の学校生活を送ったが、三年の半ばから病気で休みがちになり、卒業後一年間の自宅療養を余儀なくされたのだ。「その一年間で、同世代の人との接し方が分からなくなってしまって」。
 高一の春。新たなクラスメートに話しかけられてもうまく対応できない。「あの年代って、きっかけを逃すと友達ってできないんですよね」。クラス替えまでの一年間は友人ができなくて一人で過ごした。十代の一年間は長い。「そのころの体験が影響しているかもしれませんね」。
 療養にはプラス面もあった。漫画の描き方を本格的に練習した結果、高一で初めて投稿した作品が有名少女漫画誌の新人コンクールでいきなり入賞。「私だっ てやればできるじゃんって。ちょっとテングになってたかも」。しかし、その雑誌は持ち込む作品を一向に掲載しない。力はあるが内容が暗い」というのが編集 部の判断だった。
 「うちでやっていきたいなら方向を変えてくれ、とはっきり言われました」。その雑誌は、幼いころ漫画を読むのを禁じ、こっそり買った単行本類をすべて破 り捨てた父親が、唯一読むのを許可した愛読雑誌だった。作風を変えるか、違う場を探し直すか。後者を選び、再び投稿活動へ。その後、白泉社「花とゆめ」で 「めったに出さない」(編集部)という「銀のゆり賞」を受賞、正式にデビューを果たした。
 九月に三冊目の作品集「Wの庭園」を出版する。「今はまだ感覚に頼って描いている部分が多い。もっと技術を磨きたい。でも技術だけでは続けていけないとも思う」。作者自身の成長への志向が、作中人物のみずみずしさの源泉かもしれない。

石鍋仁美




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